秘密の地図を描こう
52
「会わせろと言っても……」
そんなことできるはずはない。レイはそう思う。
「キラさんに説明するだけでも大変なのに」
さらに、あのシンが彼に向かって何を言ってくれるか。そう考えるだけでもいやな結果しか思い浮かばない。
「第一、あいつが黙っていられるかどうか……」
キラの存在を、と呟く。
秘密を知るものは少ない方がいい。
それはギルバートもラウもよくわかっているはずだ。
「……教官達は、ギルの言葉には逆らえないし」
キラは『必要だ』と言われればうなずくのは目に見えている。
結局、反対できるとすれば自分だけだ。
しかし、とため息をつく。
「ギルはともかく、ラウが何の勝算もなく賛成するはずがない、か」
できれば、そのあたりのことを聞いておきたい。
それで自分が納得できるなら、キラに話してみよう。
「とは言っても、納得させられるんだろうな」
彼らの話術にはめられて、過去にどれくらいごまかされたか。思い出すのもいやなくらいだ。
だが、キラが関わっている以上、うかつに乗せられるわけにはいかない。徹底的に確認してやる、と呟く。
「……自宅にいればいいが」
そのまま立ち上がる。
「あぁ……ラウは絶対にいるな」
ギルバートはいなくても、と呟きながら歩き出す。
「まずは許可を取らないとな」
自宅に連絡を入れる、と付け加える。こういうとき、やはり寮は面倒くさいと思ってしまう。
それでも、自分はかなり融通を利かせてもらっていることは事実だ。
だから、我慢するしかないのだろうか。
自分に言い聞かせるようにそう口にしていた。
ここまで予想通りの行動をとってくれるとは思わなかった。そう思いながら目の前の相手を見つめる。
「ギルからのメールに書いてあったとおりだよ。彼に会わせてみるといい」
それで何も考えないようならば、ギルバートが責任をとって処理をする。そう言っていた……とラウは続けた。
『ですが……それであの人が傷ついては……』
「そのために君たちがそばにいるのだろう?」
違うのか? と問いかける。
『それとこれとは別問題だと思いますが?』
即座に彼は言い返してきた。
『キラさんがここにいるのは、身柄の安全を確保するためだと認識していました』
ここであれば、外部から立ち入ってくる人間のチェックが容易だ。ブルーコスモスの関係者がキラに接触をしないようにするには最適だと判断したからではないか。さらにそう続ける。
「おや。どうやら少しは成長しているようだね」
この程度ではごまかされなくなったか、と笑う。
『当たり前です! いったい、何年会っていなかったと思っているんですか?』
逆にこう言われてしまった。
「ともかく、だ」
なかなかしぶとくなったな、と思いながらラウは口を開く。
「このままでは彼もその少年も前には進めない。違うかな?」
どこかで気持ちに区切りをつけさせなければいけないのではないか。
特に、キラの場合、これから何度も同じような場面に出くわすのではないか。そのためにも、今回のことはいいチャンスだと思うが? と付け加える。
「大丈夫だよ。万が一の時には私が責任を持って彼の相手をしよう」
そして、シン・アスカは二度とキラのそばに近づけないように手配をさせる。そう言って笑う。
「元部下にしても、無能ではないだろうからね」
キラのフォローを任せても大丈夫ではないか。
その言葉に、レイは渋々ながらうなずいてみせる。
「必要なら彼には私から説明をするが?」
『いえ……俺がします』
お手間を取らせました、の一言ともに彼は通話を終わらせた。
「……困ったものだね、あの子も」
自分の気持ちに気づいているのだろうか、とラウは呟く。
「一番悪いのは、あの男だろうがね」
そんなレイの気持ちすらも自分の楽しみに利用している。もっとも、キラを保護しようとする気持ちだけは本物のようだが。
「まぁ、あの子にがちょうどいい試練だろうね」
頼ってきたら手を貸してやろう。それが年長者の役目だろうから、とラウは小さな声で呟いていた。